「だるい」「むくむ」の奥にあるもの――終末期ケアにおける全身倦怠感と浮腫への向き合い方
「だるい」という訴えは、しばしば聞き流されがちだ。発熱のように数値で表れるわけでも、傷のように目に見えるわけでもない。同じように「むくみ」も、「年のせいだろう」「病気だから仕方ない」と片づけられやすい症状である。しかし終末期にある人にとって、この2つの症状は、生活の質そのものを静かに、しかし確実に蝕んでいく。本稿では、全身倦怠感と浮腫という、見過ごされがちな2つの症状について、その正体と向き合い方を掘り下げていく。
1. 「だるさ」はなぜ軽視されやすいのか
1.1 進行がん患者の6割から9割が経験する、ありふれた苦しみ
全身倦怠感は、患者本人にしかわからない主観的な感覚でありながら、進行がん患者の60〜90%という、驚くほど高い頻度でみられる症状である。がんに関連した倦怠感は「がん関連倦怠感」と呼ばれ、がんそのものによるもの、がんの治療によるもの、がんの治療後に出現するものまで含む、幅広い概念として捉えられている。この感覚は病期や他の症状の有無によって揺れ動くように変化し、治療可能な原因がある場合は、その要因を取り除くことが対処の基本になる。
1.2 痛みよりも生活に影響する、という逆説
全身倦怠感は日常生活への影響が大きく、患者の満足度と直結する症状である。興味深いことに、積極的な治療を受けている患者では、痛みによる苦痛よりも、倦怠感による苦痛のほうが強く、日常生活への影響が大きいとされている。痛みであれば鎮痛薬という明確な対処法が思い浮かびやすいが、倦怠感は「なんとなく体が重い」「気力が湧かない」という漠然とした形で生活を侵食するため、本人も周囲も、その深刻さを見誤りやすい。
さらに見過ごせないのが、がん関連倦怠感が患者の意思決定にまで影響を与えるという点である。倦怠感のつらさから、根本的な治療そのものを拒否するという選択につながることもある。こうした背景から、近年では倦怠感も痛みや呼吸困難と同じように、重要な症状として扱われるようになってきた。
2. だるさの正体を2つに分けて考える
2.1 「一次的」と「二次的」という、わかりやすい整理
全身倦怠感の原因は、単一のものではなく複数の要因が絡み合っている。これを整理する切り口として、「一次的倦怠感」と「二次的倦怠感」という分類がある。
一次的倦怠感には、これといった特異的なデータは存在せず、腫瘍そのものの存在によって引き起こされる炎症性サイトカイン(体内で炎症反応を引き起こす物質)が原因だと考えられている。つまり、がんという病気そのものが、体内に「炎症の火種」をくすぶらせ続けることで生じる、いわば病気の根本に直結しただるさである。
2.2 治療や体の状態が引き起こす「二次的」なだるさ
一方、二次的倦怠感は、原因をさらに細かく見ていくことができる。放射線治療や化学療法といった抗腫瘍治療そのものによるもの、医療用麻薬(オピオイド)や向精神薬といった薬剤そのものによるもの、便秘や悪心・嘔吐、貧血、感染症、脱水といった全身状態によるもの、電解質異常や肝不全・腎不全といった代謝の異常によるもの、副腎不全や高血糖、性ホルモンの低下に関連した内分泌の異常によるものなど、実に多岐にわたる。さらに、終末期のがん患者では、体がやせ衰えていく「悪液質症候群」に起因した全身倦怠感も加わってくる。
2.3 「治せるもの」から順番に手をつける
このように原因が多層的だからこそ、ケアの順序が重要になる。まず着手すべきは、治療可能な二次的倦怠感の原因を一つひとつ洗い出すことである。便秘を解消する、貧血があれば対処する、感染症があれば治療する——こうして取り除ける原因をできる限り除去したうえで、一次的倦怠感と二次的倦怠感のどちらが主体なのかを判別していく、という段階的なアプローチが取られる。
3. 国際基準で見る、「ただの疲れ」ではないという証明
がん関連倦怠感には、国際疾病分類(ICD-10)に基づいた診断基準が存在する。これは、倦怠感が単なる気分の問題ではなく、医学的に定義可能な症状であることを示す重要な枠組みである。
基準では、重篤なだるさ、エネルギーの減少、休息の必要性などが、過去1か月以内に2週間以上、ほぼ毎日続いた状態であることが前提となる。そのうえで、全身の衰弱感や足の重さの訴え、注意力・集中力の低下、日常生活への意欲や関心の低下、不眠または睡眠過多、眠っても気分や活力が回復しない感覚、活動が低下した状態を解消するために努力が必要だと感じること、倦怠感への著しい感情的反応(悲しみ、挫折感、いらだち)、倦怠感のために日常生活を送ることへの困難、短期的な記憶への支障、そして行動後に数時間にわたって倦怠感が遷延することという、10項目のうち5項目以上を満たすことが条件になる。
加えて、この症状が臨床的に重篤な苦痛、あるいは社会的・職業的な面を含むその他の重要な活動に著しい支障をもたらしていること、症状ががん、あるいはがん治療によって生じていることを示す根拠(病歴、身体的検査、血液検査の所見)があること、そして症状が単に大うつ病や身体化障害、あるいはせん妄の一次的な結果ではないことという条件も加わる。この最後の条件が示すように、倦怠感と抑うつ状態をどう見分けるかは、臨床上の重要な分岐点になる。
4. 「しんどい」を正しく聞き取る:アセスメントの技術
4.1 「どうせ治せない」という思い込みが、見逃しを生む
全身倦怠感は極めて主観的な感覚であるがゆえに、過小評価されやすいという構造的な問題を抱えている。「がんの終末期だから、だるさがあるのは当たり前だろう」「全身倦怠感は治すこと(軽減すること)が難しい」といった、ケアを行う側の主観やバイアスが、アセスメントそのものに影響を及ぼしてしまうのである。しかし、少しでも倦怠感が和らぐことで日常生活が過ごしやすくなるよう、客観的にアセスメントしていく必要がある。「どうせ仕方ない」という諦めが、改善できたはずの苦痛を見逃す結果につながりかねないという自覚が、ケアを行う側にこそ求められる。
4.2 まずは本人に、素直に尋ねる
アセスメントの出発点は、本人への質問である。「何かをすることを億劫に感じていないか」「だるさはないか」「疲れやすさはないか」など、本人の年齢や性別、出身地による方言などにも配慮し、その人に合わせた表現方法を用いる。例えば「しんどい」「えらい」「こわい」「きつい」といった言葉は、地域によって倦怠感を表す方言として使われることがあり、こうした言葉のニュアンスを理解しておくことも、正確な聞き取りには欠かせない。
また、全身倦怠感がある患者は会話そのものが苦痛になることもあるため、質問や会話が長時間に及ばないよう配慮する必要がある。本人の理解度や意識レベルに応じて、痛みの評価に使われるスケール(数値で答えるNRSや、表情で答えるフェイススケールなど)を用いることで、苦痛を数値化し評価しやすくなる場合もある。
4.3 「いつ」「どんな時に」だるくなるのかを見極める
倦怠感がいつ出現し、どのくらい持続するのか、1日の中で変動があるのかどうか、そして何が倦怠感を強め、何が軽減させるのかを把握することが重要である。例えば、入浴や清拭、トイレへの移動、検査、面会者や訪問者への対応の後などに、倦怠感が増強することがある。こうした症状の出現パターンを把握しておくことは、活動時間や面会時間の調整を行うなど、具体的なケアに直結する情報になる。
4.4 生活の中の「できること」がどれだけ削られているか
倦怠感が日常生活の動作に、どれほど影響を及ぼしているのかを知ることも欠かせない。人の手を借りなければならないほど症状が重いのか、自分で行える活動は何か、どのようなサポートを必要としているのかを、具体的にアセスメントしていく。
4.5 「死」を連想させる、だるさの重み
全身倦怠感は、本人の意思決定にまで影響を及ぼすとされる、見過ごせない症状である。これまでのように体を思うように動かせなくなった、気力がなくなったと感じることで、「死」そのものを連想する患者もいる。そのため、倦怠感を感じることで本人がどのような思いを抱えるようになったのかを知る必要がある。これは「抑うつ」との鑑別を行ううえでも、非常に重要な観察ポイントになる。単なる身体症状として処理せず、その背後にある心理的な重みまで含めて捉える視点が求められる。
4.6 仕事や家事を手放すことへの罪悪感
積極的な治療を受けているがんサバイバーにとって、治療中に全身倦怠感が生じることは、仕事や家事、育児に影響を及ぼすことがある。そして、そのこと自体が罪悪感につながる可能性もある。このように、倦怠感が社会生活や心理状態にどう影響しているのかを知る必要がある。
全身倦怠感があるために、面会に来てくれた家族と満足できる時間を過ごすことが難しくなったり、日課にしている家事や散歩、日記、新聞を読むなどの活動ができなくなったりすることがある。このように、全身倦怠感があると「この活動をすることで満足できる」と思える活動ができなくなり、QOLの低下につながってしまう。倦怠感があることで、できなくなってしまった「大切な活動」は何なのか、またその人が「活動の目標」としていることは何なのかに焦点を当てることが、アセスメントにおいて大切である。
5. だるさに薬で向き合う
5.1 まず「抑うつ」との見分けが出発点になる
全身倦怠感は抑うつの主症状でもあるため、「抑うつ」との鑑別が治療方針を決めるうえで重要になる。また「一次的倦怠感」なのか「二次的倦怠感」なのかの鑑別も行う。そのうえで、本人の活動目標や全身状態・予後予測などを踏まえて、使用する薬剤を選択していく。
5.2 コルチコステロイドという主役
がんの悪液質に伴う全身倦怠感には、コルチコステロイドが有効であると示されている。コルチコステロイドは、全身状態が比較的良好な患者に効果が見られやすいとされ、倦怠感の軽減、そして食欲増進や活動性の向上といった効果が期待でき、効果の発現も速やかである。
ただし、漠然とした長期使用は副作用出現というデメリットを考慮し、避けたほうがよい。コルチコステロイドを長期間投与した場合の副作用(満月様顔貌、感染しやすくなることなど)は、多くの場合、投与開始から2〜3か月以上経過してから発生する。この特性を踏まえ、予後が3か月未満であると考えられる場合には、全身状態が良好であれば投与を検討するという、予後を見据えた使い分けがなされる。
5.3 原因に応じた対症療法
このほか、感染症など「二次的倦怠感」の原因に対しては、それぞれの原因に応じた対症療法を行うこともある。
6. 薬だけに頼らない、だるさへのケア
6.1 動くことが、だるさを和らげることもある
全身倦怠感に対する薬物療法と並行して、本人が安楽に感じるケアを取り入れることも有効である。意外に思われるかもしれないが、化学療法中の全身倦怠感に対しては、有酸素運動の有効性が示唆されている。「だるいから動かない」のではなく、「適度に動くことがだるさを和らげる」という、一見逆説的な効果があるのだ。
6.2 限られたエネルギーを、大切な瞬間のために温存する
がん終末期の患者の全身倦怠感に対して行われるケアの主軸になると考えられているのが、「エネルギー温存・活動療法」である。倦怠感が増強しないような時間帯を選んで活動すること、体を清潔にする際の保清の場面では労作(体を動かす負担)を最小限にすることなど、本人のエネルギーをどう配分するかという工夫が求められる。
例えば、家族の面会時間に合わせてケアの時間を調整し、活動の余力を持たせておくことは、直接ケアに携わる介護・看護従事者だからこそ介入できるケアだと言える。限られた体力を、その人にとって本当に大切な瞬間——家族との会話、好きな活動——のために残しておくという発想の転換が、ここでの核心になる。
また、1日の中で倦怠感に変動がある場合でも、家族がそばにいることで本人が安心し、安楽でいられるのであれば、その旨を十分に理解してもらえるよう家族に説明し、協力を得ることもケアの一つである。
6.3 触れること、香ることがもたらす安らぎ
全身倦怠感の症状が出現している患者にとって、必要な要素は「主観的な安楽」である。そもそも全身倦怠感は患者の主観によるものが大きく、そのため症状の軽減方法も人それぞれであることが多い。
患者によっては、体に触れてもらうだけで安楽を感じたり、「足がだるい」と感じる患者にとっては、足のマッサージやホットパック、足浴によって足を温めたりすることが、全身倦怠感の緩和につながる。数値や客観的な指標では測りきれない、本人の感覚に寄り添う姿勢が、このケアの本質だと言える。
7. もう一つの見過ごされがちな症状:浮腫とは何か
7.1 体の6割を占める水分の、行き場のない滞留
浮腫について理解するには、まず人体の水分構成を知っておく必要がある。人体の構成成分のうち60%は水分が占めており、体内の水分は細胞内液と細胞外液に分けられ、55%が細胞内液である。細胞外液はさらに血管内液と間質液に分けられる。間質液は毛細血管から滲み出してきた液体であり、組織に栄養を与え代謝物を受け取る役割を持つ。その一部は静脈に、一部はリンパ管に吸収され、このリンパ管に吸収された液体を「リンパ(液)」と呼ぶ。
浮腫とは、細胞外の組織間質にあるこの間質液が過剰に貯留した状態を指す。体液量が体重の約10%増加すると、下肢の浮腫として目に見える形で認識できるようになるとされる。
7.2 「局所」のむくみと「全身」のむくみ
浮腫は、毛細血管領域での水分のバランスの乱れや、間質液の回収を担うリンパ管の機能異常に起因する「局所性浮腫」と、心臓、腎臓、内分泌機能の異常に起因する「全身性浮腫」に分けられ、それぞれ対処法が異なる。この区別を見誤ると、適切なケアにたどり着けない。
8. むくみはなぜ起こるのか:4つのメカニズム
8.1 心臓や腎臓の不調が、静脈に圧力をかける
心不全(特に右心不全)や腎不全によって静脈が鬱滞すると、毛細血管内の静水圧(血管の中から外へ押し出そうとする圧力)が上昇し、間質に水分が貯留して浮腫が発生する。
8.2 血液中のタンパク質が減ると、水分を引き戻せなくなる
低栄養やネフロー�ゼ症候群、肝機能障害などによって血中のアルブミン(血液中の主要なタンパク質)が低下すると、血漿の水分を血管内に引き戻す力である「膠質浸透圧」が弱まり、血漿中の水分が間質へと移ってしまう。
8.3 血管の壁が「漏れやすく」なる
感染症や熱傷、アレルギーなど、体に侵襲が加わることによって血管の透過性が亢進し、本来なら血管内にとどまるはずの水分が間質へと移行することで起こる。
8.4 排水路であるリンパ管が詰まる
リンパ管が圧迫されたり狭窄・閉塞したりすることで、リンパ液の流れそのものが滞ってしまい、むくみとして現れる。
9. むくみをどう見極めるか:全身性と局所性のアセスメント
9.1 全身性浮腫:左右対称という手がかり
全身性浮腫の多くは左右対称に起こり、体重の増加を伴い、指で押すとへこんだ跡(圧痕)が残るという特徴がある。原因となっている疾患が治療・改善されることで、浮腫も軽快していく。
心疾患(うっ血性心不全など)による浮腫は、姿勢によって強く出現する部位が異なるという特徴があり、労作時や夜間の呼吸困難、座らないと呼吸が楽にならない起坐呼吸、首の静脈の怒張といった所見を伴う。腎疾患(慢性腎不全・急性腎不全、ネフローゼ症候群など)では、急性糸球体腎炎では眼瞼など顔面に強くむくみが出る一方、ネフローゼ症候群では全身に強い浮腫をきたし、倦怠感や食欲不振、尿にタンパクが出る蛋白尿を伴う。
肝疾患(肝硬変、急性肝炎など)による浮腫は腹水を伴い、左下肢から発生することが多いという特徴があり、倦怠感、やせ、黄疸など肝障害の症状、脾腫や門脈圧亢進症状を伴う。内分泌疾患(甲状腺機能低下症、バセドウ病など)では、起床時に手や顔面に浮腫が起こり昼頃に改善する、右心不全による心性浮腫、前脛骨粘液水腫、そして甲状腺機能低下の場合は指で押しても元に戻る非圧痕性浮腫(粘液水腫)、粘液水腫顔貌といった独特の所見が見られる。低栄養性の浮腫は、一次性(食事性)の脚気や飢餓浮腫と、二次性(続発性)の悪性腫瘍や吸収不良症候群、蛋白喪失性胃腸症などに分けられ、感染防御能の低下や創傷治癒の遅延、代謝障害を伴う。このほか、薬剤誘発性浮腫、月経性浮腫、起立性浮腫なども存在する。
9.2 終末期の輸液療法という、繊細な判断
終末期患者の多くは、全身機能の低下に伴い水分・栄養摂取の低下をきたす。しかし、経口摂取量が減少したからといって輸液量を安易に増やすことで、浮腫の増強や痰の量の増加、喘鳴などの呼吸困難症状が助長される可能性がある。日本緩和医療学会が発行する終末期がん患者の輸液療法に関するガイドラインでは、生命予後が1〜2か月の患者に対し、1,000mL/日以上の輸液を投与することで浮腫を悪化させる可能性が示唆されており、輸液量を減量することで浮腫による苦痛を最小限にできると考えられている。
しかし、終末期の輸液療法に関しては患者・家族の意向が十分反映されるべきであり、倫理的配慮が求められる。輸液治療に対し希望を持ったり、「何かしてあげたい」という思いを抱える場合は少なくないし、それらは患者・家族として当然の思いでもある。医療従事者はこのような思いにも十分配慮した上で、輸液治療のメリット・デメリットを説明することと併せ、不安を受け止めたり、意思を尊重していく姿勢も求められる。輸液療法は個々の患者の状況に応じたものでなくてはならず、画一的に「食べられないから輸液をする」「終末期だから輸液を減らす」といった判断はなされるべきではない。
9.3 局所性浮腫:熱を持ち、痛みを伴うことがある
局所性浮腫は、発赤や熱感、疼痛といった炎症症状を伴い、浮腫液はタンパク質の多い浸出液であることが特徴だ。静脈疾患(深部静脈血栓症、静脈瘤など)では、血液凝固能の亢進や静脈血流の停滞、緩徐化、静脈壁損傷が原因となる。リンパ管疾患(リンパ浮腫、リンパ管症など)は、先天性・早発性・晩発性のリンパ浮腫である「原発性(一次性)」と、手術後や外傷後、悪性リンパ浮腫、がん性リンパ管症、寄生虫などによる「続発性(二次性)」に分けられる。このほか、アレルギー性、炎症性、熱傷などによる浮腫もある。
10. むくみを和らげる薬物療法
低タンパク血症による浮腫の治療には、利尿剤の投与が有効とされ、電解質バランスを見ながら投与されることが多い。また、アルブミンの低下を起こした原因によっては、アルブミン製剤を投与することで、その後継続して浮腫の改善が認められるという判断があれば、アルブミン製剤の使用は有効と判断できる。
しかし、悪液質によるアルブミン低下の場合は、アルブミン製剤を使用しても悪液質が改善する可能性はないため、浮腫改善の可能性も低い。そのため、患者の水分出納バランスを把握し、過剰な水分投与にならないよう輸液量を調整する必要がある。終末期に伴う低タンパク血症による浮腫は、原因そのものへの治療が困難であるため、浮腫に対するケアが中心となる。
リンパ浮腫に関しては、コルチコステロイドや漢方薬(五苓散、紫苓湯など)が使用されることもあるが、明らかなエビデンスは乏しい。現在、薬物治療の効果が期待できるものはなく、複合的理学療法(スキンケア、医療用リンパドレナージ、圧迫療法、圧迫下の運動療法)が有効とされている。
11. 体に負担をかけない、むくみへの実践的ケア
11.1 挙上という、最も基本的な工夫
浮腫のある部分を心臓より高い位置に挙げることで、苦痛を伴わずにむくみを和らげることができる。上下肢ともに浮腫の部位を挙上し、10cm程度の挙上で効果があるとされる。
11.2 体位交換は、負担を最小限に
浮腫があると、その重みによって自力での体位変換が困難になることが多くなるため、患者の状態に合わせてマットレスの素材も検討していく。ターミナル後期は、体位変換を行うこと自体が身体的苦痛につながるため、小さな範囲で向きを変える「スモールチェンジ」で対応する。浮腫により関節可動域が制限されるため、移動の際は転倒に注意が必要である。
11.3 皮膚を守る:清潔・保湿・保護という3本柱
浮腫のある皮膚は、通常よりもはるかに繊細な配慮を必要とする。
清潔の面では、タオルは柔らかい素材を選び、ゴシゴシ擦らず愛護的に洗う。水分を拭き取る際も擦らないようにする。石鹸は弱酸性のものを使用し、皮膚に余分な摩擦を与えないようよく泡立てて洗う。石鹸成分はしっかりすすぎ、拭き取りは押さえ拭きで行う。組織圧の低い陰部は浮腫をきたしやすく、浮腫により排泄障害が起こる可能性があるため注意が必要である。皮膚は浸潤し傷つきやすいため、オムツ汚染時は速やかに交換する。患者からは訴えにくい部分でもあるため配慮していく。下着やオムツ、パジャマなどの衣服による圧迫でリンパ還流が障害されやすいため注意が必要であり、ウエストや袖口のゴムをゆるくし、ゆかた様の着衣の使用も考慮する。更衣の際には摩擦に注意し、着脱による皮膚損傷を防ぐ。
保湿の面では、浮腫のある皮膚は乾燥し脆弱な状態にあるため、保湿が重要である。ドライスキンを改善させることで皮膚のバリア機能を高め、摩擦やずれなどの外的刺激を低減でき、二次的損傷が予防できる。アルコール成分が含まれているものは刺激が強いので避ける。角質内で水分を保持できるタイプと、皮膚表面に膜を張り水分の蒸発を防ぐタイプの2種類を上手に使い分ける。
保護の面では、ポリウレタンフィルムによる保護は摩擦力を軽減できる。ただし、菲薄化した皮膚や浮腫のある方への貼付は、剥がす際に二次的損傷を招く恐れがあるため注意が必要である。包帯やアームウォーマー、もこもことした素材の靴下は皮膚の保護や保温にも適しているが、皮膚状態の観察がしにくくなるため注意が必要となる。
11.4 感染を防ぐという、見落とされがちな視点
白癬(水虫)の治療や巻き爪、傷のケアを行い感染予防を図る。リンパ漏がある場合には、周囲の皮膚が浸軟して皮膚トラブルが拡大しないよう、撥水効果のある軟膏(ワセリンなど)を使用し、オムツなどで浸出液を吸収する。表皮剥離のリスクがあるため、皮膚に直接テープを固定するのは避ける。
11.5 圧迫療法という、慎重な取り扱いを要する技術
弾性包帯による圧迫を行う際は、皮膚が脆弱な状態にあるので、保湿剤使用後に圧迫を行う。皮膚を保護するために、柔らかいガーゼ包帯などを弾性包帯の下に使用する。レッグウォーマーやレギンスなどでも代用可能である。
ただし圧迫療法には明確な禁忌がある。心不全、心性浮腫、閉塞性動脈疾患の患者は絶対禁忌となる。高血圧、狭心症、不整脈、リウマチ、感覚障害のある患者は相対的に禁忌となる。良かれと思って行う圧迫が、かえって患者の状態を悪化させる可能性があるため、この見極めは極めて重要である。
11.6 マッサージという、多面的な効果を持つケア
マッサージには、浮腫によるだるさや重さなどの症状緩和を図れるという効果がある。歩行能力の改善、関節可動域の改善も期待できる。むくみが減ることでのボディイメージへの満足感を得ることができる。リラクゼーション効果や触れることによる安心感を得ることもできる。そして、コミュニケーションの機会となり、家族もケアに参加することができるという、副次的だが重要な意味も持つ。
ただし、マッサージにも禁忌がある。患者が望まないとき、深部静脈血栓症があるとき、倦怠感が強いとき、急性静脈炎など局所に炎症所見があるとき、皮膚に損傷や湿疹等の症状・疾患があるとき、出血斑や出血傾向にあるとき、心不全・心房細動・心性浮腫があるとき、そして骨転移のある患者には行うべきではない。
12. まとめ:数値に表れない苦しみに、どう応えるか
全身倦怠感と浮腫は、どちらも「日常活動が制限されるだけでなく、容姿の変貌も伴うため精神的苦痛が大きい」という点で、深いところでつながっている症状である。だるさで何気ない日常の喜びが奪われていくこと、むくんだ手足を見て自分の体が変わっていくことを実感すること——これらはいずれも、本人の尊厳や自己イメージに直接触れる体験である。
だからこそ、患者や家族にとっては、倦怠感のわずかな和らぎや、浮腫のわずかな軽減、あるいはリンパ漏の消失でさえも、大きな意味を持つ。ケアを実践する側が忘れてはならないのは、ケアの中心は常に患者本人であるという原則だ。ケアに伴って不快感や疼痛を引き起こす可能性があるからこそ、患者のニーズに合わせて適宜ケア内容を見直す必要がある。症状を数値の上で軽減することだけを目的とするのではなく、快適さを与え、症状に関連する不快感を和らげ、本人に残された機能を保っていくこと。それこそが、目に見えにくいこれらの症状に向き合う際の、最も確かな指針だと言えるだろう。
