最期の時を支える仕組み――終末期を支える法制度と社会資源
どれほど温かいケアも、それを支える制度と資源がなければ現実のものにはならない。医療費の負担を抑える仕組み、介護サービスを受けるための手続き、収入が途絶えたときの保障——こうした法制度は、普段は意識されることのない「見えないインフラ」として、終末期を迎える人とその家族を下支えしている。本稿では、終末期に関わる社会資源と、その土台となる社会保障制度を整理する。
1. 社会資源という考え方
1.1 制度・人・モノすべてを含む、広い概念
社会資源とは、様々なニーズを充足し、より安心安全にその人らしく暮らしていくための、制度や情報・施設や機関・設備・資金・物質・法律・集団・個人の有する知識や技術の総称である。現在、日本では終末期を病院や施設だけでなく住み慣れた自宅でその人らしく過ごすための様々な社会資源が整っている。ただ、年齢や仕事、生活する場所などによって利用できる制度が異なる。状況に応じた支援を受けるために必要な保障制度・保険制度について見ていく。
2. 社会保障制度という土台
2.1 憲法25条に根ざす、国の責任
社会保障とは、「人々が生活していくうえで、個人的リスクである病気・けが・出産・障害・死亡・老化・失業などから生活上の誰にでも起こり得る問題について貧困の原因を予防し、貧困者を救い、生活を安定させるために国家扶助または社会が所得移転によって所得を補償し、医療や介護などの社会的サービスを給付する制度」を指す。日本の社会保障制度は日本国憲法の第25条に基づいて国民の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しようとするための制度である。
近年では、社会保障は、「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うもの」とされている。
2.2 社会保障が果たす、3つの機能
社会保障の主な機能として、①生活の安定・向上機能、②所得再分配機能、③経済安定機能の3つが挙げられる。
①生活の安定・向上機能は、人生のリスクに対応し、国民生活の安定を実現するものである。例えば、医療費に関しては、病気やけがをした場合、医療保険を利用し少ない自己負担で必要な医療を受けることができる。医療費が高額になった場合、その負担を軽減する制度として高額療養費制度がある。この制度によって、万が一、終末期に通院や入院で医療費が高額になったとしても、一定の金額を超えた費用が払い戻される。年金制度に関しては、支払った年金に応じ老齢年金を受け取ることができ、また介護が必要になった場合は、介護保険を利用し、1〜3割の自己負担で必要な介護を受けることができる。雇用・労働政策においては、失業した場合に、雇用保険によって失業保険を受給できる。仕事中に起こった業務上の疾病等は労災保険によって受診等ができる。このような社会保障の機能によってリスクを恐れることなく日常生活を送ることができ、人生の目標に向かって様々なことに臨むことができる。
②所得再分配機能は、社会全体で、低所得者の生活を支えるものである。具体的には、高所得層から資金を徴収し、所得の低い人に分配することで、生活を支える社会的なサービスが均等に受けられるようにする機能である。また、稼得能力のある人々から稼得能力のなくなった人々に所得を移転することも含まれる。例えば、生活保護制度の財源は税金であり、税を財源にして高所得の人から低所得の人への再分配が行われている。さらに、公的年金制度は保険料を主要財源にした現役世代から高齢世代への世代間の所得再分配と考えられる。また、所得再分配には、現金給付だけでなく、医療サービスや保育等の現物給付もある。
③経済安定機能は、経済変動による国民生活への影響を緩和し、経済成長を支える機能である。例えば、雇用保険制度は、失業中の人の生活を支えるだけでなく、個人消費の減少による景気の落ち込みを抑制する。また、年金制度には、不況期でも、一定の額の支給があるため高齢者等の生活の安定、消費活動の下支えを通して経済社会を安定させる機能がある。
日本の社会保障制度は、「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「公衆衛生」の4つの柱からなっている。本稿では、このうち社会保険を中心に、終末期と関わりの深い制度を見ていく。
3. 社会保険制度:5つの柱
社会保険は、人生の様々なリスクに備えて、人々があらかじめお金(保険料)を出し合い、実際にリスクに遭遇した人に、必要なお金やサービスを支給する仕組みである。社会保険には、医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険がある。この5つが、終末期を支える制度の骨格を成している。
4. 医療保険制度:誰もが医療にアクセスできる仕組み
4.1 国民皆保険制度という、日本の特徴
日本における医療保険制度の特徴は、国民全員が公的医療保険で補償されているということである。この国民皆保険制度を通じて世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を実現している。医療機関を自由に選ぶことができ、実際に生じる費用よりも安い医療費で高度な医療を受けることができる。
医療保険は、労働者が収入に応じて毎月保険料を支払うことで成り立つが、この保険料は企業や事業主も負担している。また、国や地方公共団体でも一定の負担をしている。保険料や負担金をもとに、実際に医療にかかった費用の一部を負担するだけで医療を受けることができ、残りの医療費は保険が負担する。この仕組みを社会保険と言う。
4.2 職域保険と地域保険
医療保険制度は、大きく職域保険と地域保険に分けられる。職域保険には、一般にサラリーマンなどの会社員が加入する健康保険と公務員が加入する共済組合、船員が加入する船員保険がある。地域保険とは、どの職域保険にも加入していない自営業の方が加入する保険である。
被保険者の種類によっても制度は細分化されており、健康保険適用事業所で働くサラリーマン・OL(民間企業の労働者)が加入する一般の健康保険、国家公務員・地方公務員・私学の教職員が加入する共済組合(短期給付)、健康保険・船員保険・共済組合等に加入している勤労者以外の一般住民が加入する国民健康保険、厚生年金保険など被用者年金に一定期間加入し、老齢年金給付を受けている65歳未満等の人が加入する国民健康保険(退職被保険者)といった区分がある。
4.3 後期高齢者医療制度という、独立した制度
後期高齢者医療制度は、75歳以上(65歳以上で一定の障害がある方)の方が加入する独立した医療制度である。対象は、75歳以上の方、または65歳以上74歳以下の方で、寝たきりなど一定の障害があると認定された方である。これらの方は、加入中の医療保険から脱退し、後期高齢者医療制度に加入する。誕生日当日から資格が取得できる。終末期ケアの対象となる高齢者の多くが、この制度のもとで医療を受けることになる。
5. 年金保険制度:老後と障害を支える仕組み
5.1 社会全体で支え合うという考え方
日本の公的年金制度は、老後の暮らしをはじめ、事故などで障害を負ったときや一家の働き手が亡くなったときに皆で暮らしを支えあうという社会保険の考え方で作られた仕組みである。
5.2 4つの年金
①国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人に加入する義務があり社会全体で支えあう公的な制度である。現役時代に被保険者として加入し、月々の保険料を納めると将来、自身の生活を保障する年金を生涯にわたって受け取ることができる。原則的に保険料を納めなければ、年金を受け取ることができない。
②厚生年金は、国民年金に上乗せされて給付される年金である。企業に勤務する会社員などが対象となる。
③老齢年金は、所定の年齢に達することにより支給される年金のことである。日本の公的年金制度には、国民年金法における「老齢基礎年金」と厚生年金保険法における「老齢厚生年金」がある。10年以上の納付によって受給資格を得られる。
④障害年金は、国民年金法・厚生年金保険法等に基づく公的年金である。負傷や病気によって、所定の障害の状態になったものに対して、国から支給される。障害年金は年齢が若くても受け取ることができる。障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金の2種類がある。障害厚生年金は、初めて医師・歯科医師の診療を受けた日に、厚生年金に加入していた場合、障害基礎年金に上乗せされるものとして給付される。
さらに遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方(受給者)が亡くなった場合に、その方によって生計を維持されていた遺族が受け取ることができる年金である。終末期を迎える本人だけでなく、残される家族の生活を支える仕組みとして、この遺族年金は重要な位置を占める。
6. 介護保険制度:終末期ケアの中核を担う仕組み
6.1 制度が生まれた背景
日本では、高度経済成長以降、国民の生活水準が向上し、公衆衛生の発展や医療技術の進歩により平均寿命が大きく伸長している。そうした中で、65歳以上の高齢者人口の割合は増え、介護需要は増大すると考えられていた。平成6年には、「高齢者保健福祉推進十か年戦略の見直しについて(新ゴールドプラン)」が策定された。これにより、日本の高齢者保健福祉計画の整備が進められていった。
また、核家族化の進行や介護する家族の高齢化など、要介護者を支える家族の環境も変化していった。家族のみで要介護者を支えることは難しい時代となり、要介護者の自立支援、家族のサポートなど、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして、1997年に「介護保険法」が制定、2000年より施行された。
6.2 制度の仕組みと理念
介護保険制度とは、加入者が保険料を支払い、介護が必要な時に認定を受け、必要な介護サービスを利用する制度である。加入者は、40歳以上のすべての人である。保険料は、加入している健康保険と一緒に徴収される。
単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということだけではなく、高齢者の自立を支援することを理念としている。サービスを受けるにあたっては、利用者の選択により、多様な保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる利用者本位の制度である。給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用している。保険者は、全国の市町村で、財源は、保険料と公費からなる。
6.3 被保険者と要介護認定
介護保険制度の被保険者は、①65歳以上の者(第1号被保険者)と②40〜64歳の医療保険加入者(第2号被保険者)となっている。
介護保険サービスは、65歳以上の者で、介護が必要な状態となり要介護認定を受け、要支援・要介護状態となったとき、または、40〜64歳で特定の疾病が原因で要支援・要介護状態になった場合に受けることができる。
6.4 終末期がんという、特例の入口
終末期において、悪性腫瘍で一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがないと医師に診断された場合、65歳以下でも介護保険を申請することができる。その場合、特定疾病1、がん(末期)に該当し、介護サービス利用が可能となる。
この特例は、若くして終末期を迎える人にとって、介護保険サービスへの重要な入口になる。特定疾病には、がん(末期)のほか、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、後縦靭帯骨化症、骨折を伴う骨粗鬆症、初老期における認知症、進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病、脊髄小脳変性症、脊柱管狭窄症、早老症、多系統萎縮症、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症、脳血管疾患、閉塞性動脈硬化症、慢性閉塞性肺疾患、両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症という、16種類が指定されている。
6.5 要介護認定の流れ:5つのステップ
要介護認定は、次の流れで進む。
①申請:介護保険の申請は、本人が住んでいる市町村の窓口で行う。申請時には、要介護(要支援)認定申請書・介護保険被保険者証・マイナンバー・身分証明書等が必要になる。家族やケアマネジャー等、本人以外からも申請することができる。
②一次判定:書類を提出し介護保険の申請を行うと市町村の認定調査員が、直接自宅に訪問し聞き取りによる心身の状況調査(認定調査)を行う。また、市町村よりかかりつけ医に主治医意見書の作成を依頼し、それらとともにコンピューターでの判定を行う。
③二次判定:保健・医療・福祉の学識経験者で構成された5名程度の介護認定審査会が、一次判定結果、主治医意見書等に基づき審査判定を行う。ここで、要介護度(要支援度)を検討する。
④通知:認定された場合、申請後30日程度で認定証と介護保険被保険者証が送られてくる。
⑤介護サービスの利用:介護認定が出た場合は、ケアマネジャーに相談する。要支援が出た場合は、地域包括支援センターに相談する。ケアマネジャーは、本人だけでなく家族からの希望を聞きながら、その人に合った「ケアプラン」を作成する。そして、そのケアプランに基づいて必要なサービスを受ける。
7. 介護保険で利用できる、多彩なサービス
7.1 居宅介護支援という出発点
利用者が自宅で適切なサービスを利用できるように、ケアマネジャーが、介護認定の申請のお手伝いや、心身の状態や生活環境、本人や家族の希望をもとにケアプランを作成するサービスのことである。サービスを提供する事業所等との連絡調整も行う。
7.2 居宅サービス
自宅での生活を支える居宅サービスには、多様な種類がある。利用者の自宅に介護ヘルパーが訪問し身の回りの家事全般、食事や排泄の介助を行う訪問介護、医師の指示に基づき看護師が利用者の自宅に訪問して、医療処置の管理や療養の世話をする訪問看護、利用者の自宅で移動式浴槽を用いて入浴介助を行う訪問入浴介護、利用者の自宅を訪問してリハビリを行う訪問リハビリ、利用者の自宅に医師・歯科医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士等が訪問して療養上の管理や指導、助言を行う居宅療養管理指導、利用者が数日程度介護老人福祉施設等に入所し、必要な介護や生活支援機能訓練等を受ける短期入所生活介護、医療機関や介護老人保健施設等で医療管理下の看護、療養上の世話や機能訓練、必要な治療が受けられる短期入所療養介護、有料老人ホーム等で提供される特別養護施設サービス計画に基づいて日常生活上の介護や機能訓練等を受けられる特定施設入居者生活介護、自宅で生活する利用者が、できる限り自立した生活が送れるように車椅子等の福祉用具をレンタルする福祉用具貸与、利用者が施設に通い、日常生活上の介護や機能訓練を受ける通所介護、利用者が介護老人保健施設や病院等に通い、理学療法・作業療法・言語聴覚療法等のリハビリテーションや日常生活動作訓練を受ける通所リハビリテーションという、多岐にわたるサービスが用意されている。
7.3 地域密着型サービス
地域に根差したサービスとして、夜間、利用者の自宅に介護スタッフが訪問し夜間に必要な生活上の介護を行う夜間対応型訪問介護、介護が必要な認知症の利用者に対し、自宅でできる限り自立した生活ができるように通所によって日常生活上の支援や機能訓練等を行う認知症対応型通所介護、通所(デイサービス)と訪問介護、ショートステイを一体的に提供する小規模多機能型居宅介護、同一事業所が利用計画制で必要なサービスを提供する定期巡回・随時対応型訪問介護看護があり、在宅で生活される利用者に対し日中・夜間を通して訪問介護と訪問看護を提供し定期巡回と対応を行う。
7.4 複合型サービス・施設サービス
複合型サービスとして、介護保険の指定を受けた29人以下の施設で、入所している利用者に対し必要な日常生活上及び機能訓練等を行う地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症の利用者が共同で生活する住居において、少人数の家庭的な雰囲気の中で必要な生活上の介護及び機能訓練等を行う認知症対応型共同生活介護がある。
施設サービスとしては、寝たきりや認知症などで、常に介護が必要で在宅での生活が難しい方が入所する施設である介護老人福祉施設、日常生活の支援や機能訓練を受ける3〜6か月程度の一定期間の入所で、在宅復帰を目指す介護老人保健施設、医療法人が運営する施設で、比較的重度の要介護者が入所できる施設であり、必要な医療や介護サービスを受けることができる介護療養型医療施設がある。
8. 雇用保険・労災保険:働く人を支える仕組み
8.1 雇用保険制度
労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、再就職するための教育を受ける方への援助を行うことを目的としている。雇用保険は、政府が管掌している。労働者を雇用する事業所は、原則強制的に適用される。
8.2 労働災害補償制度
労働基準法に基づく使用者の災害補償責任を保険によって担保するものである。業務上の事由、災害または通勤災害によって負傷し、病気になったり障害が残ったり死亡したりした場合に労働者やその遺族のために必要な保険給付が行われる制度である。保険料は、全額事業主の負担になる。対象者は、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト等賃金を支給されているすべてであり雇用形態は関係ない。休業給付・障害給付・傷病給付・介護給付・遺族給付・葬祭給付などがある。
働き盛りの世代が終末期を迎える場合、この労災保険や雇用保険が、本人や家族の生活を支える重要な支柱になりうる。
9. 社会福祉法という、もう一つの土台
9.1 社会福祉6法
社会福祉6法とは、「生活保護法」「児童福祉法」「身体障害者福祉法」「知的障害者福祉法」「老人福祉法」「母子および寡婦福祉法」の6つの法律のことである。
9.2 介護福祉を担う、多様な専門職
介護福祉には多くの専門職が関わる。主に、高齢者福祉施設や障害者福祉施設などの社会福祉施設、老人保健施設や療養型病床など病院や医療施設で関わる。高齢者や障害者の日常生活の自立を支援するサービス提供の中心を担う職種である。食事や入浴、排泄、衣服の着脱や移動など、利用者の生活全般にわたって必要な援助を行う。また、散歩や買い物を援助し行事やレクリエーションを実施することや、利用者の家族に介護方法のアドバイスを行うこともある。
主な業務内容として、身体や精神の障害、病気などにより日常生活を介護する「介護」(主な資格:介護福祉士)、サービス利用者の生活全般の相談に応じ助言・援助、精神的な支援を行う「相談援助」(主な資格:社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員)、医師の医療行為を支えるとともに、利用者の日常的な健康管理や衛生管理、医療的なケアを行う「看護」(主な資格:看護師、保健師)、身体の障害の機能回復や日常生活への復帰を図るリハビリテーションを実施する「リハビリテーション」(主な資格:理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士)、利用者の食事を支える役割を担う「栄養・調理」(主な資格:栄養士、調理師)、庶務・経理、管理者など施設や事業所の運営管理の仕事を行う「運営管理関係」(主な資格:事務職員、施設長)がある。
介護を担う資格として介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士などがある。介護福祉士は、専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする国家資格である。社会福祉士は、専門的知識及び技術をもって、身体上・精神上の障害、又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する国家資格である。精神保健福祉士は、1997年に誕生した精神保健福祉領域のソーシャルワーカーの国家資格で、社会福祉学を学問的基盤として、精神障害者の抱える生活問題や社会問題の解決のための援助や、社会参加に向けての支援活動を通して、その人らしいライフスタイルの獲得を目標としている。
10. 障害者福祉制度:ノーマライゼーションという理念
10.1 措置制度から支援費制度へ
ノーマライゼーションの理念の下、従来の措置制度から、サービスの利用者自らがサービスを選択し直接契約する新しい支援費制度に平成15年から移行した。ノーマライゼーションとは、年齢や社会的マイノリティに関係なく生活が保障された環境を作っていく考え方である。
支援費制度の施行より、サービスの利用者が増え、今後も利用者の増加が予想される。今後、対象者に含まれない精神障害者も含め障害者が必要なサービスを安定して利用できるよう障害者自立支援法が可決成立した。
10.2 精神障害者への支援
2017年の精神障害者の総数は約419.3万人である。精神障害者に対する医療・保健・福祉施策は、ノーマライゼーションの理念の下、「精神障害者の保健医療の確保」と「精神障害者の方々の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進」という2つのテーマを中心に、入院患者の処遇の改善、地域で生活する精神障害者の支援等に積極的に取り組んでいる。
10.3 サービスの概要
サービスは、「障害者福祉サービス」と「地域生活支援事業」に大別される。「障害者福祉サービス」は、介護の支援を受ける場合には「介護給付」、訓練等の支援を受ける場合は「訓練等給付」に位置づけられ、利用の際はプロセスが変わってくる。
11. 公的扶助という、最後のセーフティネット
11.1 生活保護制度
生活保護制度は、生活に困窮している人に対して最低限度の生活を保障するために金銭の給付などによって保護を行い、その自立を助長する制度である。具体的には、生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8つの項目のうち必要な項目の金額を合算して支給される。
公的扶助とは、生活保護法に基づいて困窮者を社会全体で支えることである。各扶助の内容として、生活していくうえで必要な食費や衣類、日常生活の需要を満たすための状況で基準生活費・入院患者日用品費・介護施設入所者基本生活費等がある「生活扶助」、児童が義務教育を受けるときの扶助で教材代、学校給食費、通学のための交通費等がある「教育扶助」、家賃・間代・地代等、その他家屋の補修又は建具、水道設備等の従属物の修理等がある「住宅扶助」、けがや病気で医者を要するときの扶助で、医療費は現物支給が原則である「医療扶助」、介護サービスを受けるための扶助である「介護扶助」、出産に伴い必要となる費用の扶助である「出産扶助」、生業に必要な資金、器具や資料を購入するための費用、高等学校就学のための費用を必要とするときの扶助である「生業扶助」、葬祭を行うときの扶助である「葬祭扶助」がある。
11.2 民生委員という、地域の目
民生委員とは、厚生労働大臣から委嘱され、それぞれの地域において、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める方々のことを言う。民生委員法(昭和23年法律第198号)および地方公務員法第3条第3項第2号に規定される非常勤の地方公務員である。給与の支払はなくボランティアとして活動している。任期は3年であり、再任も可能である。
民生委員の活動・はたらきとしては、担当区域内の住民の実態や福祉ニーズを日常的に把握する「社会調査」、地域住民が抱える課題について相手の立場に立ち、親身になって相談に乗る「相談」、社会福祉の制度やサービスについて、その内容や情報を住民に的確に提供する「情報提供」、住民がそれぞれのニーズに応じた福祉サービスを受けられるよう、関係行政機関、施設、団体等に連絡し、必要な対応を促すパイプの役割を果たす「連絡通報」、住民の福祉ニーズに対応し、適切なサービスが受けられるように支援する「調整」、住民が求める生活支援活動を自ら行い、支援体制を作る「生活支援」、活動を通じて得た問題点や改善策についてとりまとめ、必要に応じて民生委員児童委員協議会を通して関係機関等に意見を提起する「意見具申」という、7つの役割がある。終末期を自宅で迎える人にとって、こうした地域の見守りの目もまた、重要な社会資源の一つになる。
12. 終末期における、介護保険と医療保険の使い分け
12.1 終末期を在宅で過ごす場合
終末期において、悪性腫瘍で一般に認められている医学的知見に基づき、回復の見込みがないと医師に診断された場合、65歳以下でも介護保険を申請することができる。介護認定された場合、介護保険を利用し介護サービスを受けることができる。
障害者福祉サービスを利用している方が65歳に到達した場合、または40歳以上65歳未満の場合で要介護・要支援の原因が特定疾病によって生じた場合、障害福祉サービスから介護保険へ切り替わる、介護保険優先の原則がある。
居宅介護支援事業所のケアマネジャーが利用者の状態に合わせてケアプランを作る。できるだけその人らしく過ごせるよう介護保険だけでなく、医療保険を活用することもできる。病院ではなく、家で過ごす場合、医療を最大限に手厚く受けられるよう、医師の指示のもと医療保険を利用した訪問看護を受けることができる。この場合、介護保険の訪問看護より訪問回数を増やすことができる。また、訪問看護では、24時間連絡(対応)加算が算定できるよう申請している事業所があり、夜間や緊急時に看護師に連絡し、相談や医療を受けることができる。医療保険で訪問看護を受けた場合の費用は、医療保険からの請求となるため、高額になった場合は、申請により高額療養費制度を利用することができる。終末期には、介護保険と医療保険を活用し在宅での療養生活を送ることができる。
12.2 終末期を施設等で過ごす場合
施設によっては、「看取り」を行っている場合がある。病院ではなく、自宅で最期を迎えたいが、生活のサポートに不安がある場合などは、施設で終末期を過ごすことができる。その場合、ケアプランは施設のケアマネジャーが作成する。
施設での看取りを行う場合は、一定の条件を満たすと「看取り介護加算」が算定できる。看取り介護加算が算定できるのは、特別養護老人ホーム・グループホーム・特定施設入居者生活介護の3つの事業所である。看取り介護加算は、医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した入所者について、入所者等とともに、医師、看護職員、生活相談員、介護職員、介護支援専門員等が協働して入所者がその人らしく生き、その人らしい最期が迎えられるよう支援することを主眼として設けたものである。入所者又はその家族等に対して説明し、その後の療養及び介護に関する方針についての合意を得ることが必要である。看取り介護加算は、死亡日以前4日以上45日以下が加算対象となり、施設において行った看取り介護を評価するものである。
施設での看取り介護においても、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスガイドライン」に基づいた支援が求められている。ここでは、本人や家族との話し合いや意思の尊重はもちろんのこと、終末期における医療ケアについて、医療者が連携をとることも重要視されている。
前章までのシリーズで扱ってきたアドバンス・ケア・プランニングや意思決定支援の理念が、ここで「看取り介護加算」という具体的な制度要件として組み込まれていることが分かる。
多死社会の加速に伴い、介護と医療がシームレスに情報共有をし、手を取りあえる関係性の構築が必要である。施設によっては、医療保険を利用して他事業所の訪問看護を受けることができる場合もあり、その場合、施設職員と連携しさらに手厚い医療と看護を受けながら終末期を過ごすことができる。
12.3 介護保険と医療保険、2つの制度の違い
介護保険と医療保険には、いくつかの重要な違いがある。年齢の面では、介護保険は40歳未満は利用不可である一方、医療保険は医師の診断で訪問看護の必要性が認められた人が利用可能である。40歳以上65歳未満では、介護保険はがんやパーキンソン病などの一部疾患(特定疾患)の対象者で、かつ要支援・要介護と認定された人が利用可能だが、医療保険は、医師が訪問看護の必要性を認め、かつ①特定疾患ではない、②特定疾患であるが介護保険の要支援・要介護に該当しない、のいずれかに該当する人が利用できる。65歳以上では、介護保険は要支援・要介護と認定された人が利用でき、医療保険は、医師が訪問看護の必要性を認め、かつ要支援・要介護認定に該当しない人が利用できる。
保険給付の制限についても違いがあり、介護保険は要介護度により支給限度額設定があるのに対し、医療保険には制限がない。訪問看護の回数及び時間についても、介護保険では介護度における上限額内で30分未満、60分未満、1時間半未満という区分があるのに対し、医療保険は原則週3日までだが、状態により週4日以上も可能で、1回30分〜90分という違いがある。
利用料も異なり、介護保険は所得に応じて1割〜3割負担であるのに対し、医療保険は75歳以上では1割負担(現役並み所得者は3割、現役並み所得者以外の一定所得以上の者は2割)、70〜74歳では2割負担(現役並み所得者は3割)となり、健康保険は3割負担、国民健康保険も3割負担となる。この複雑な制度設計を理解したうえで、本人の状態に最も適した保険をどう組み合わせるかが、在宅・施設いずれの終末期ケアにおいても、重要な実務上の判断になる。
13. 終末期を取り巻く現状と課題
13.1 「自宅で死にたい」という願いと、現実のギャップ
2019年12月11日に神戸新聞に掲載されたアンケートによると、65歳以上の高齢世代のうち半数以上が自宅での死を希望すると答えている。ただ、在宅死を望む人の6割近くは、実現が難しいと回答している。一方で、介護の担い手となる中年世代の半数以上は、親などの家族を自宅で看取るのは困難と回答している。その理由として仕事や経済面の理由を挙げている。
終末期を住み慣れた自宅や施設で過ごし、介護保険や医療保険でサービスを利用すると、一部負担金が発生する。また、介護サービスを受けていない時間帯は家族等が介護を担うため仕事と介護の両立が難しい。住み慣れた家で最期を迎えさせてあげたいが、介護のために仕事を休むことができず希望通りにいかないと考えている方が多い現状がある。
本シリーズの早い段階で扱った家族ケアの章でも、家族が抱える「生活上の制約」というニーズに触れたが、このアンケート結果は、その制約が、単なる個別の家庭の問題ではなく、社会全体に広がる構造的な課題であることを示している。
13.2 制度は整いつつある、しかし
しかし、今後は在宅や施設での看取りがさらに増えると考えられる。最近では親の介護を行うための介護休暇や介護休業を取得できるような制度が整っており、看取り加算やターミナルケア加算などを算定できる施設や事業所も増えてきている。今後は、さらに社会全体の理解と終末期ケアを担うスタッフの教育、医療・介護が連携してサポートできる体制づくりが必要である。
14. まとめ:制度を知ることも、ケアの一部である
本稿で見てきた医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険という5つの社会保険と、社会福祉法、障害者福祉制度、生活保護制度、民生委員といった社会資源は、どれも単体では終末期ケアの主役にはならない、いわば背景の仕組みである。しかし、この仕組みを知っているかどうかが、実際に提供できるケアの幅を大きく左右する。
要介護認定を65歳未満でも受けられる特定疾病の制度を知らなければ、若くして終末期を迎える患者が必要な介護サービスにたどり着けないかもしれない。看取り介護加算の存在を知らなければ、施設が「看取りまで対応できる」という選択肢を、本人や家族に示せないかもしれない。介護保険と医療保険の使い分けを知らなければ、本人にとって最も手厚い形で在宅療養を支える方法を、見つけられないかもしれない。
制度やお金の話は、ともすれば血の通わない、事務的な領域だと思われがちである。しかし「自宅で死にたい」という願いの6割が実現できていないという現実は、まさにこの制度を知り、使いこなす力の有無が、最期の時間の質を左右することを物語っている。終末期に関わるすべての人にとって、法制度と社会資源への理解もまた、他のどんなケア技術とも並ぶ、欠かすことのできないケアの一部なのである。
