「どう生きたいか」を、共に決める――終末期における意思決定支援という営み

人生の最終章において、人は何度も選択を迫られる。治療を続けるべきか、やめるべきか。最期は病院で迎えるべきか、住み慣れた自宅がいいのか。こうした問いに「正解」はない。しかし、その問いに本人が向き合い、納得できる答えにたどり着くまでの道のりを、そばで支えることはできる。これが「意思決定支援」と呼ばれる営みである。本稿では、悪い知らせの伝え方から、アドバンス・ケア・プランニング、そして安楽死・尊厳死をめぐる倫理的な論点まで、終末期の意思決定にまつわる全体像を整理する。

Contents

1. 「事実を伝える」ことから始まる支援

1.1 病名告知の時代から、インフォームド・コンセントへ

意思決定支援は、患者に事実を伝えることから始まる。かつて日本の医療現場では、「病名告知をするか、しないか」ということ自体が大きな問いだった時代があった。その時代を経て、1980年代にはインフォームド・コンセント(十分な説明を受けて同意のうえで治療を選択する)という考え方が浸透してきた。

しかし現在では、医学的に正しい情報提供だけでは足りないということが、広く認識されるようになっている。情報や事実をいかに伝えるか、事実を伝えたことに対する患者・家族の苦悩への対応とサポートをどのように行うか、ということが重要視されるようになったのである。「伝えること」から「伝えた後にどう支えるか」へと、関心の重心が移ってきたと言えるだろう。

1.2 医療の場から、生活の場へ

最期を迎える場所は、医療の場のみならず、在宅や施設など生活の場となることも増えており、介護従事者の役割も重要になっている。病院の中だけで完結していた意思決定支援は、今や在宅医、訪問看護師、ケアマネジャー、そして介護職員までもが担い手に加わる、専門性を活かしたチーム医療の円滑化が求められる領域になっている。

1.3 終末期だからこそ、選択肢は多様で、しかも重い

一般的に確立している治療の場合には選択肢は限られる。しかし医療の発展に伴い、患者の受ける医療や療養場所など、選択肢は多様化している。そのため、積極的治療が困難となった際や緩和医療が中心となり、医療の転換が生じる終末期の意思決定の選択肢は非常に多様化している。

加えて終末期となる意思決定では、「残りの人生とどう向き合っていきたいのか」という問題にも直面するため、患者・家族にとってはもちろんのこと、伝える医療者にとっても辛い事実となる。それぞれが多くの苦悩を抱くため、事実を伝えることが難しいと言える。しかし一方で、患者の残された時間は限られており、早急に意思決定を行うための対応が必要となることから、各々の葛藤は大きくなる。

1.4 シシリー・ソンダースが説いた、ケアする者の姿勢

終末期ケアの先駆者であるシシリー・ソンダースは、「治癒の病期がもたらす感情的、および霊的な苦痛には、致死量の薬ではなく、人間的な理解と共感、それに、いつでも患者の声に耳を傾ける用意こそ必要だ」と述べている。この言葉は、我々医療者のケアの重要性をうたっていると言える。

患者・家族の声に耳を傾けるものは医療者だけではない。むしろ日常生活援助を通じて患者・家族、いわゆる対象の直接的なケアを行う機会が多い介護従事者が担う役割は大きい。なぜなら、日常生活援助では対象が「何を大切にしているのか」「これまでどうして生きてきたのか、生活してきたのか」といった、対象の価値観に触れる機会が多くあるからである。終末期の意思決定は、対象の価値観を基に決まっていくことが多く、価値観を知ることは非常に重要となる。よって対象と直接関わる機会の多い職種の担う役割は大きい。

2. 悪い知らせを、どう伝えるか

2.1 SPIKESからSHAREへ

トロント大学の腫瘍内科医であるバックマンは、悪い知らせを適切に伝えるための実践的なガイド「SPIKES」を開発した。2007年に日本のがん医療においても、日本人の意向をもとに「SHARE」が開発された。SHAREは、がん医療において、医師が患者に悪い知らせを伝える際の効果的なコミュニケーションを実践するための態度や行動を示している。

2.2 SHAREという4つの要素

SHAREは、Supportive environment(支持的な場の設定)、How to deliver the bad news(悪い知らせの伝え方)、Additional information(付加的な情報)、Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポート)という4つの要素の頭文字から成り立っている。

準備段階では、面談を準備する。事前に重要な面談であることを伝え、家族の同席を促しておく、プライバシーが保たれている部屋を準備する、時間を十分に確保しておく、中断しないよう電話への配慮をする、身だしなみや時間厳守などの基本的な態度を整える、といったことが求められる。

ステップ1(面談を開始する)では、患者の気持ちをやわらげる言葉をかけ、いきなり悪い話を行わない。経過を振り返り、病気の認識を確認する。家族にも同席を促す。他の医療者を同席させるときは患者の了承を得る。

ステップ2(悪い知らせを伝える)では、心の準備をするための言葉をかける、感情を受け止め、気持ちをいたわる言葉をかける、写真や検査データを用いる・紙に書く(パンフレットの利用)、患者の理解度を確認し速すぎないか尋ねる、質問や相談があるか尋ねる。

ステップ3(治療を含め今後のことについて話し合う)では、標準的な治療、取りうる選択肢について説明する、推奨する治療法を伝える、がんの治る見込みを伝える、セカンドオピニオンについて説明する、患者が希望を持てる情報も伝える、患者の日常生活や仕事について話し合う。

ステップ4(面談をまとめる)では、要点をまとめる、説明に用いた紙を渡す、今後も責任をもって診療にあたること・見捨てないことを伝える、患者の気持ちを支える言葉をかける。

2.3 4つの大切な原則

これらのステップを貫く大切なことは、①信頼関係の構築と場を設定すること、②誠実に対応しわかりやすく説明すること、③意思を確認し患者が希望する情報を提供すること、④患者の気持ちに共感的に対応し、家族にも配慮することである。技術的な手順の背後に、一貫してこの4つの原則が流れている。

3. 悪い知らせを伝える現場で、医師以外にできること

3.1 伝えるのは医師、支えるのはチーム全体

バッドニュースを伝えるのは主に医師の役割と言える。では、バッドニュースを伝える場に同席する看護師や薬剤師、もしくはバッドニュースを伝えられた患者・家族のサポートを担う医療者として、必要なことにはどのようなものがあるだろうか。

3.2 伝えられる前にできるケア

バッドニュースが伝えられる前の患者の状況、患者・家族のニーズを明確化し、医師と情報共有し面談内容の検討をする。患者の知りたくない権利も大切だが、知らないことに対するデメリットやどの程度まで知りたいのかという点についても吟味する。また、知りたくない気持ちや知りたい気持ちは揺れ動くため、時々気持ちの確認が必要であり、継続的に確認を行うことが大切である。

具体的には、「病気についてどのようなことを心配されていますか?」と患者・家族の気がかりを確認する、「今の状況について○○先生からどのようにお話を聞いていらっしゃいますか?」と病状認識を確認する、「今後の生活で何か希望されていることはありますか?」と意向を確認する、「大事なお話ですので、ご家族にも来ていただくよう連絡していただけますか?」と家族にも来てもらえるよう調整する、といった具体的な声かけが挙げられる。

3.3 伝えられている最中にできるケア

準備の段階の関わりから患者・家族は話の内容が深刻であると感じていることが多く、ある程度の心の準備ができている場合もある。しかし一方で予想しているよりも状況が厳しいと感じ、話の途中で動揺する患者・家族ももちろんいる。また、医師もバッドニュースを伝える際には様々な葛藤をもち緊張していることもある。同席する医療者はバッドニュースを受ける患者・家族と、バッドニュースを伝える医師との双方を客観的に見ることができる立場と言える。

具体的には、「同席させていただくので何かあればおっしゃってくださいね」など声をかけ、緊張した場をやわらげる存在となる。患者・家族と医師の顔が見える場所に座る。患者・家族の様子を見ながら聞きたいことが聞けているかを確認する。必要時、患者・家族の意向を医師に代弁する(「○○さんは△△△が心配と話されていましたが、その点についてはいかがですか」「本日のお話は○○さんが思っていた内容よりも、お辛いお話でしたので、今は動揺して何を聞いていいかわからないと思います」など)。

同席する医療者は、双方を観察し、患者が求めている情報や気がかりを明確にし、その質問に医師が対応できるよう調整し、患者家族の理解度を確認・共有しながら双方のやり取りが円滑に行えるようサポートする役割がある。

3.4 伝えられた後にできるケア

悪い知らせを伝えられた場合、人はその事実を受け入れられず動揺することは当然の過程であり、通常の反応である。我々医療者・介護従事者は、受け入れられない患者・家族の状況が当たり前の反応と捉え、正しい心理的反応であることを心に留めておくことが大切である。また、どの程度で患者・家族の心理状況が変化しているのかを知っておくこともケアを行う際には重要となる。

具体的なケアとしては、理解度や認識の確認を行い情報の整理や追加を行う(「追加のご質問はありませんか?」「お聞きになった話を一緒に振り返ってみましょうか」「先生からの説明をどのように受けとめられましたか?」)、情緒的サポートを行い患者の思いを代弁しながら共感していることを患者に伝える(「○○先生からのお話はショックでしたね」「そのように思われるのは当然のことです。○○さんだけではありませんよ」「今のお気持ちを詳しく教えていただけませんか?」)、患者・家族の状況などを医療スタッフ間で情報共有し今後のサポート体制について検討する、といった対応が挙げられる。

特に医師は相談するチームスタッフが限られたり、いなかったりするため、医師の辛い気持ちや複雑な思いにも十分配慮する。また、患者・家族に自身の言葉で語っていただくことには重要な意味がある。患者・家族は話を実際に行うことで自己の気持ちを整理し、自分の感情に焦点を当てることができるメリットがある。看護師は患者・家族の受け止めや反応を確認することで、アプローチが必要な感情を明確化して今後のケアに活かすことができる。

3.5 ショックが落ち着いていく過程を知っておく

通常2週間程度は心理的に不安定な状態となるが、2週間以後は少しずつ落ち着いてくる時期となる。この適応の時期となっても日常生活に影響が及ぶような心理状況が見られる場合には、精神的なケアとして専門家に相談を行うことも必要となる。

悪い知らせに対する心理的反応は、3つの段階をたどるとされる。第1相(初期反応、2〜3日)では、まるで自分のことではない感じで、覚えていないこともある。「ショックだ」「頭が真っ白になった」「その時のことをよく覚えていない」など、状況に対して事実を認めたくないといった思いや絶望感を抱く。第2相(不安・抑うつの時期、1〜2週間)では、日常生活に支障が出てくる。食欲がない、不眠、不安が募る。第3相(適応の時期、2週間以後)では、少しずつ気持ちの整理が行えるようになる。現実的にどのように対処していけばいいのか、だれに相談すればよいのかなど具体的に対応するよう考えることができるようになる。

この時間の流れを知っておくことは、「まだ2週間しか経っていないのに、なぜ前向きになれないのか」という、本人にも周囲にも生じがちな焦りを防ぐための、重要な道しるべになる。

4. 終末期を取り巻く倫理という土台

4.1 「医学的に正しいこと」と「本人にとって正しいこと」は別物

医療における倫理では、「医学的に正しいこと」が「患者・家族にとって正しいこと、善いこと」とならないところが難しいところである。患者・家族にとって最善の医療を行うための意思決定には、患者・家族の価値観が大きく影響する。

4.2 これまでの人生の選択が、今の選択を照らす

終末期における意思決定では「残りの人生とどう向き合っていきたいのか」という問題に直面すると述べたが、実際には終末期に至るまでに実はいくつか意思決定を行ってきた患者・家族が多く、そこには患者・家族の価値観が影響している。医療者が、患者・家族の価値観を知るためには、患者・家族がこれまでの人生をどのように過ごしてきたのか、どのような意思決定をこれまで行ってきたのかを知ることが必要である。患者本人の話や家族との対話のなかから引き出すことが重要と言える。日頃、我々が患者や家族と行っている会話のなかにそのヒントがあること、意味があることを意識し関わることが求められる。

そして、これまで行ってきた意思決定に対して患者・家族は、今どのように感じているのかも重要となる。これまでどのような意思決定を行ってきたのか、「どのようなことを考え」「何を大切にし」「どのようにして決めてきたのか」「そしてそのことを今はどう感じているのか」「これらをふまえてこれからはどうしていきたいのか」といったことも大きな手掛かりとなり重要である。

4.3 対象が見せる「顔」は、職種によって異なる

以上の点から患者・家族、いわゆる対象の価値観に多く触れている職種との連携は欠かせない。なぜなら患者・家族は、医師に見せる顔、看護師に見せる顔、介護職に見せる顔、また同じ職種であっても対象が見せる顔は時に異なることがあるからである。倫理的な問題を考えるとき、様々な視点や立場から対象をとらえ最善となるよう考えること、考えるプロセスが重要である。対象に関わる他職種の連携、各々の専門性を活かした話し合いが行われることが倫理的問題の解決の一歩となると思われる。

5. 将来に備える対話:アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

5.1 ACPとは何か

アドバンス・ケア・プランニングとは、「将来の自己決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養についての気がかりや価値観を、患者・家族と医療従事者が共有し、ケアを計画する包括的なプロセス」と定義されている。

アドバンス・ケア・プランニングの歴史は浅く、似た言葉にアドバンス・ディレクティブ(事前指示)があり、「従来からの、患者あるいは健常者が将来判断能力を失ったときにみずから行われる医療行為に対する意向を前もって示すこと」と定義されている。

5.2 「結果」ではなく「プロセス」であるという決定的な違い

どちらも意思決定として似ているように感じられるが、大きな違いがある。それは、アドバンス・ケア・プランニングは意思決定の結果ではなく、意思決定のためのプロセスであるということである。患者のその時々の気持ちや意向を医療スタッフと家族が受け止めて患者にとっての最善を共に考えていくことができるプロセスとなる。

アドバンス・ケア・プランニングやアドバンス・ディレクティブは、患者が将来、意思決定能力が低下した時にも患者の望む医療を提供できるようにすることができるが、アドバンス・ケア・プランニングを行う際に患者と医療者だけではなく、家族も一緒にその場にいること、共に行うことも重要である。患者の意識レベルが低下した際には、家族や代理意思決定人と共に様々な選択を行うこととなるが、家族も共に意思決定のプロセスを歩むことができれば、患者の意向やその理由について事前に知ることができる。そのような場合には、家族や代理意思決定人の負担や悲嘆が少なくなる可能性もあり家族も共に行うことが大切である。

5.3 代理意思決定人という、重い役割

代理意思決定人は、患者の意向を患者に代わって表出し、医療者と様々な選択を決定していく人となる。しかし実際の臨床の場では、患者自身の意向ではなく代理意思決定人自身の意向を伝えられる場面に度々出会うことがある。本来の代理意思決定人の役割とは、患者の意向を誰よりも理解し、患者がこの場合ならどうしてほしいと考えるかを代弁できる人のことであると言える。我々医療者は代理意思決定人と話し合う際に、この点について家族、代理意思決定人と考えていくことが重要である。

ただし、患者がアドバンス・ケア・プランニングで出した意思決定の内容と、現実に起こった状況があまりにも異なる場合には、家族としての意向をくみ取ることも実際には行われることもある。このためアドバンス・ケア・プランニングの際に、本人の意思決定能力が保てなくなった場合、決定内容をどの程度重視するかということを話し合っておくことも重要とされている。

5.4 誰がACPを担うべきか

具体的にアドバンス・ケア・プランニングをどのように行っていくのか。患者・家族の思いに寄り添うという言葉が終末期にはよく用いられる。気持ちに寄り添いつつ、悪い話を行うというのは一見矛盾しているように思われるが、「最善を期待しつつ、最悪に備える」という言葉のように、どちらにも対応できるように考えておくことや、話し合うことが重要ではないかと考える。ただし、患者と家族がどの時期なら悪くなったときのことを考えることができるのか、というタイミングを見極めることは決して容易なことではない。患者・家族が考えたいと思う時に、医療者が察知し行動に起こす必要がある。医療者や介護従事者はこの一瞬一瞬を逃さずに待つこと、また待ってみてもそのタイミングがなければ患者・家族の思いがどうなのか、自らがアクションを起こして患者・家族の反応を見ることも時には必要となる。このタイミングは言葉で表すことは困難であるが、専門職として感性を培い、患者・家族となる対象の思いに寄り添い続けることで、その大切な一瞬は見えてくると信じている。

そう思うとアドバンス・ケア・プランニングは医師や看護師だけが行うものではなく、患者・家族が最も信頼をしている人がアドバンス・ケア・プランニングを行う適任者と言えるのではないだろうか。例えば、それは医療従事者に限らず、もしかすると直接的なケアを行うことが多い介護従事者となるかもしれない。介護従事者も基本的なコミュニケーションスキルや、意思決定支援における基本的な内容を理解しておくことは非常に重要となる。

そして対象の揺れ動く思いを察知した際には、他の職種と情報を共有し患者・家族を含めたチームケアが円滑に行われる、この過程がアドバンス・ケア・プランニングとなっていく。

5.5 どう切り出すか:具体的な問いかけの例

実際にどのように尋ねるのかについては「○○さん、もしも(万が一)この治療が続けられなくなったときにはどのようにしたいか考えたことがありますか?」など、「もしも〜」「万が一〜」「〜について考えたことがありますか?」と尋ねてみるとよい。ここで、少しでも患者・家族(対象)の表情が曇る、もしくは「そんな縁起でもない」「そんなこと考えたことない」などの否定的な反応があった場合は、この質問は終了とする。

しかし、そこで患者・家族(対象)が自身の思いを表出された場合には、患者・家族(対象)の気持ちに焦点を当てて思いを聴く、そしてその思いや感情、例えば「〜を心配しておられるのですね」「〜は嬉しいことですね」「〜を大切にしたいと思っておられるのですね」など我々自身の言葉に置き換え相手に伝えることで、患者・家族(対象)は思いを聴いてもらえたと感じる。いわゆるこれが共感するということである。共感とは、相手の思いを受け取ったと相手にわかってもらえるよう伝えることであり、この関わりもコミュニケーションでは不可欠である。

5.6 最善を期待しつつ、最悪に備える

我々は当然、最善の状況を期待しケア・治療にあたる。一方で、万が一の事態、最悪の事態にも備え準備しておくことも大切なこととなる。また、会話の過程では医学的知識が必要なことも多く、不確実な内容を患者・家族に伝えることは不安を助長させる。忘れてはいけないことは各々の専門的な知識・役割のもとに対象と関わることである。そして自己の領域を越えた内容、質問に関してはチーム間で情報を共有し、適任者が対応できるよう調整を行うことが求められる。一般的に調整の役割は看護師が担うことが多いと言える。

6. 安楽死と尊厳死をめぐる問題点

6.1 言葉の定義を、正確に押さえる

安楽死とは、苦しんでいる不治の病人を安らかに死なせることを意味し、積極的安楽死と消極的安楽死に分けられる。積極的安楽死とは、苦しんでいる患者に致死量の薬剤や薬剤量を投与し早急に死に至らしめることであり、一般的に安楽死と呼ばれているものである。また、消極的安楽死とは延命治療を行わないことによる患者の生命を自然のままに終結させることをいい、いわゆる尊厳死がこれにあたると言える。

尊厳死とは、過剰な延命措置を行わずに人としての尊厳を保った状態で死を迎えることである。現在、我が国では安楽死や尊厳死を認める法律は存在しておらず、終末期医療をめぐる様々な倫理的な問題があると考えられる。この法的な空白地帯こそが、現場の医療者・介護者が終末期の意思決定において、常に慎重な判断を求められる根本的な背景になっている。

7. 意思決定支援の実際:3つの局面

7.1 治癒が困難、治療効果が得られなくなったとき(治療継続か緩和ケアか)

まず、抗がん治療に対する患者・家族の思いを確認する。抗がん治療継続に期待する思いと、中止に伴う不安など患者の気持ちに焦点を当てる。

次に、抗がん治療だけが「がんに対する治療」ではないことを説明する。緩和医療の正しい情報提供を行う。

そして、「治療継続」「緩和ケア」どちらを選んだとしても、決して間違いはない。どちらを選んでも「あの時違う選択をしていれば」と後に思うことは当然の感情であるため、そう思った際には「あの時にあれだけ時間をかけて考えたのだからこれでよかったんだ」と思うことができる。将来抱くかもしれない後悔の思いが少しでも緩和されるためにも、今このときに時間をかけて考える意味があることや重要性を説明する。

具体的な声かけの例としては、「抗がん剤での治療にはメリットもデメリットもあります。強い薬剤を使用し、がんに対する治療をしますが、同じようにお身体全体も強い薬のダメージを受けます。最近治療をした後の体調はいかがですか?」「抗がん治療をするのは、○○さんにとってどのような思いですか?少しでも体調がよく、長生きするために治療を行っているのが目標ならば、治療を行わないことが体にとっては負担なく、体調が整うことがあります。あえて、抗がん剤を行わない治療を選択することも大切な治療かもしれません」といったものが挙げられる。

7.2 抗がん治療を中止する(治療中止)

抗がん治療だけが「がんに対する治療」ではないことを説明する。緩和医療の正しい情報提供を行う。セカンドオピニオンの紹介を行う。

声かけの具体例としては、「これまで治療をどうしようか考えながら、頑張ってきましたね。治療を止めることはがんの治療を止めてしまう不安になるかもしれません。抗がん剤だけが治療ではありません。痛みや、息苦しさなど今の困っている症状を緩和していくことも体力の温存となり、体調よく過ごすことにつながり、○○さんが大切にしている△△の時間につながると思います」「緩和ケアは、がんの治療ではとても大切な治療です。痛みや嘔気など今困っている症状を緩和する治療を積極的に行うことで、○○さんがしたいことや大切な時間をつくることができます。○○さんが望む時間をすごすことに繋がります。そういった意味では抗がん治療も緩和医療も決して異なる医療ではないのです。治療を変えることではないのです」といったものが挙げられる。

7.3 療養環境の調整(在宅か緩和ケア病棟か)

最期は「緩和ケア病棟」か「在宅」かといった、どこで過ごしたいかではなく、どのように過ごしたいのかを尋ねてみる。それぞれの療養環境に対する正しい情報提供を行う。

声かけの具体例としては、「今は病院に通院することが可能ですが、今後、体調によっては通院することがお辛いとお考えですか。それとも症状が出た際には入院したいとお考えでしょうか。今すぐではなくても、これからのことを少し考えて準備しておくことは安心材料になると思います。少し一緒にこれからのことを考えてみませんか」「よく緩和ケア病棟か自宅かどちらかを選ばないといけないと考えられる方がいらっしゃいます。皆さん、今の状況から今後どのような体調になるかわからないので、今の段階でどちらかに決めておくことは、難しいかもしれません。その場合、自宅で困った際には専門的な緩和医療を緩和ケア病棟で受け、困りごとが解決した際にはまた自宅に帰ることも可能です」といったものが挙げられる。

「どこで過ごしたいか」という二者択一の問いを、「どのように過ごしたいか」という、より本質的な問いへと置き換えること。この視点の転換そのものが、意思決定支援の技術の核心にあると言えるだろう。

8. 意思決定支援で、最も大切なこと

8.1 時間が意思決定を追い立てる、という現実

終末期に携わる者として、少しでも患者・家族が望む医療や生活が行えるように寄り添いたいと思っている者は少なくないだろう。人生の最終章における意思決定で大切なことは、「患者や家族の思いに寄り添いたいという思い」と「専門性を活かした知識」と「患者・家族を中心としたチーム医療の確立」ではないだろうか。

現在、医療の現場では在院日数の短縮化に伴い、患者家族の意向を確認する間もなく、病院側の意向を中心に意思決定を行うことが少なくない。例えば、治療が可能な時期は、限界まで治療を行うことを目指し抗がん治療を行う。そして治療困難となった際にはターミナル期として緩和医療へ切り替えていくと説明を受け、患者・家族の気持ちの整理がつかないままに治療法や療養場所を決定することを余儀なくされていることが実際には見られており、患者・家族の苦悩は増している。

8.2 正解がないことを、どう受け止めるか

終末期の意思決定では様々な患者・家族・医療者・介護従事者など各々の苦悩があり、倫理的問題や価値観などを考慮し、正解がないため皆が常に迷い続けることが必要である。対象となる患者・家族にとって何が最善であるのかを自問自答し、そして、対象の思いは常に揺れ動き変化するものと心に留めながら「最善を期待しつつ最悪に備える」こと、些細な変化を見逃さないことが重要である。

8.3 支援者自身の「人としての在り方」が問われる

何より患者本人や家族のみならず、他の職種や同職種からも、最も安心して相談してもらえる存在になるには、人としての品格も備える必要がある。自分自身が人としてどう在るのか、自分自身を知り、日々学習すること、感性を高めること、成長し続けることも終末期の意思決定支援に関わる者として必要な要件ではないかと考える。

9. まとめ:揺れ動く思いに、寄り添い続けるということ

終末期の意思決定支援は、「悪い知らせをどう伝えるか」という最初の一歩から、アドバンス・ケア・プランニングという継続的な対話のプロセス、そして安楽死・尊厳死といった根源的な倫理の問いまで、幾重にも層をなす営みである。その全体を貫いているのは、「正解を示すこと」ではなく「本人と家族が、自分たちなりの納得にたどり着く過程を支えること」という一貫した姿勢だ。

SHAREのような体系立った技法も、ACPの問いかけ方も、どちらも「患者・家族の価値観を知る」という一点に向かって収斂していく。そしてその価値観は、医師に見せる顔、看護師に見せる顔、介護職に見せる顔と、相手によって異なる表情で現れる。だからこそ、日常生活に最も近い場所でケアを行う介護従事者もまた、意思決定支援の重要な担い手になりうる。揺れ動く思いを決して急かさず、最善を期待しながらも最悪に備え、専門職としての知識とチームの連携を携えて寄り添い続けること。それこそが、「どう生きたいか」という、誰にも代わることのできない問いに向き合う人のそばに、医療・介護従事者がいられる理由なのだろう。