慢性閉塞性肺疾患(COPD)の終末期ケア
「息を吸うことより、吐くことのほうが苦しい」。慢性閉塞性肺疾患(COPD)を抱える人は、そんな逆説的な苦しさとともに暮らしている。この病気は、増悪と寛解を繰り返しながら、一度壊れた肺を元に戻すことなく進行していく。本稿では、COPDがどのような病気で、終末期にどのような経過をたどるのか、そしてそれぞれの段階でどのようなケアが求められるのかを整理する。
1. COPDという病気の現在地
1.1 長年の習慣が、肺を静かに壊していく
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、長期間の有害物質の吸入により生じた肺の慢性炎症性疾患である。不可逆的でかつ進行性の疾患であり、以前は慢性気管支炎や肺気腫と表現されていたが、近年、「慢性閉塞性肺疾患」と統合された。主に、長期間の喫煙などが原因であり「生活習慣病」といえる。
特に、日本人の慢性閉塞性肺疾患有病率は、喫煙経験のある人のほうが非喫煙者よりも高く、高齢者になるほど高くなることもわかっている。60代以降に好発し、男性の方が女性よりも約2.5倍罹患率が高くなっている。
1.2 統計が示す、見えにくい患者の多さ
厚生労働省の統計によると、2017年の調査の結果、病院で慢性閉塞性肺疾患と診断された患者は約22万人であった。また、2021年の慢性閉塞性肺疾患による死亡者数は16,384人であり、男性の全死因の第9位である。しかし、いまだ多くの人々が慢性閉塞性肺疾患であることに気が付かず、あるいは、正確に診断されずにいると考えられている。昨今、死因順位は下降傾向であるが、女性の方が喫煙に対する肺の感受性が高いことが示唆されており、発症リスクが高いといわれている。
診断されている人数よりも、診断されていない人の数のほうが多いかもしれない——この「見えにくさ」こそが、COPDの大きな特徴の一つである。
1.3 高齢者の生活の質を、じわじわと下げる病
高齢者の慢性消耗性疾患の代表であり、運動時の呼吸困難から活動量低下を起こし、排痰能力低下を促進させ悪循環となる。また、心不全や糖尿病・低栄養・骨粗鬆症・貧血など他の合併症を併発していることも多く、持続的な酸素投与が必要であるなど高齢者の生活の質を下げる。
肺での合併症としては、喘息・肺癌などがある。特に、全慢性閉塞性肺疾患の20〜30%に喘息を合併していることが多く、オーバーラップ症候群(ACOS; Asthma COPD overlap syndrome)と称されている。現在、根本的治療はないが、薬物療法などで進行を遅滞させることは可能である。
2. 病態と病期分類
2.1 壊れた気道が元に戻らない、ということ
慢性閉塞性肺疾患は、気道の炎症などにより不可逆的な気流制限を生じる肺疾患である。症状は、呼吸困難を主に動悸や喘鳴、チアノーゼなど多くの臨床症状を表す。検査所見では、%肺活量が80%以上で1秒率が70%未満となると定義されている。
経過は、長期間の有害物質の吸入により末梢気道の上皮細胞が障害され、慢性的な炎症を起こす。長期間の呼吸困難により、ADL低下や活動性低下、意欲の低下を合併する。また、過度に依存的になることもある。慢性閉塞性肺疾患は、不可逆的な進行性疾患であり生命を脅かす。
2.2 4つの病期
病期の分類は、気流閉塞の程度によって一般的に4つに分けられる。
Ⅰ期(軽度の気流閉塞):1秒率が70%未満で、予測1秒量に対する割合(%FEV1)が80%以上。
Ⅱ期(中等度の気流閉塞):1秒率が70%未満で、%FEV1が50%以上80%未満。
Ⅲ期(高度の気流閉塞):1秒率が70%未満で、%FEV1が30%以上50%未満。
Ⅳ期(きわめて高度の気流閉塞):1秒率が70%未満で、%FEV1が30%未満。
(1秒量とは、最大に息を吸って一杯努力して吐き出した時の最初の1秒間に吐き出した量、努力肺活量とは最大に息を吸って一杯努力して吐き出した息の総量、%1秒量とは体格・年齢・性別から予測計算される1秒量に対する実測値の割合を指す。)
2.2 悪化を繰り返す、という経過の特徴
通常、慢性閉塞性肺疾患は、慢性的に経過し長期の生存も望めるものである。しかし、慢性閉塞性肺疾患は、急性増悪を起こし、繰り返し重症度のステージが上がりADLやQOLを低下させる。いかに急性増悪を起こさないよう管理するか、いかに早く急性増悪を見抜き対応するかで生命転帰も大きく変化する。
がんのように「ある時期から急速に下り坂になる」のではなく、増悪のたびに一段ずつ階段を下りていくという経過をたどる点は、前章の脳血管障害とも共通する。
3. 急性増悪期:嵐のような時期
3.1 感染をきっかけに起こる、急激な悪化
慢性閉塞性肺疾患は、感染などを引き金に急性増悪を起こす。急性増悪時は、強い呼吸困難、チアノーゼ、意識状態変化、喀痰の増量など多様な臨床症状を示す。
3.2 薬と呼吸補助による医療介入
薬物療法として短時間作用性抗コリン性気管支拡張剤(SAMA)や短時間作用性β2刺激薬(SABA)を急性期に用いる。またステロイド(ICS)や喀痰調整薬を用いることが多い。
酸素療法は必須であることが多いが、非侵襲的陽圧換気(NPPV; Non-invasive Positive Pressure Ventilation)を用いることも多く、さらなる重症例では一時的に気管内挿管を行い換気を調整することもある。酸素療法も高濃度から低濃度、またさらに高流量の酸素が必要な時はネーザルハイフロー(NHF; Nasal High Flow)セラピーを行う。ただし、慢性閉塞性肺疾患患者では酸素療法中に二酸化炭素ナルコーシスを起こしやすい。酸素療法中は、常に意識状態の変化や末梢のしびれ、振戦などの症状に注意しておく。
NPPVやハイフローセラピーは、一時的に酸素化を改善し急性期の医療介入として多く用いられる。侵襲的な気管内挿管と比べ、導入のリスクは低い。メリットとして意識下での導入が可能・会話ができる・経口摂取ができるなどがあるが、デメリットとしてマスクなどディバイスによる圧迫感・皮膚損傷・誤嚥などがあげられる。適応時は、リスクと合併症を十分理解し使用する。
意識があり、会話ができ、食事も口から摂れるという利点は、人工呼吸管理を受ける本人にとって、尊厳を保つうえでも大きな意味を持つ。
3.3 予後を左右する因子
慢性閉塞性肺疾患の予後不良因子には、①PaO2の低下、②1秒率の低下、③肺活量の低下、④最大換気量の低下、⑤運動負荷時のPaO2の低下がある。肺疾患以外の予後不良因子には、①全身組織の酸素化の不良、②高齢であること、③低栄養状態、④胃潰瘍の合併、⑤右心不全の合併、⑥電解質異常があり、臨床ではこれらが併存する。
3.4 増悪期の栄養管理
増悪期の栄養管理は、経口摂取が望ましいが状況に応じ経管栄養や胃瘻栄養を考慮する。最重症時は、TPN(中心静脈栄養)として十分な栄養を確保する。増悪期は、蛋白の異化と糖新生が低下しているためこれらを補う。また、多種のビタミンや微量の血清重金属の補正も行う。急性期は、通常時の20〜30%増しのエネルギー(総栄養の20%の蛋白質・60〜70%の炭水化物)でコントロールする。
3.5 増悪期の精神状態へのケア
集中治療を行うような増悪期では、精神面の管理が重要となる。生活のリズムを積極的に持たせ、昼夜の刺激を与える。可能な限りプライバシーを保護する。点滴や栄養チューブ、モニターラインなどを整理し拘束感を和らげる。増悪期は、死への不安が常に存在している。説明と同意とともに、コミュニケーションを常にとる心掛ける。
侵襲的な処置は、苦痛を伴うだけでなく、代謝障害・錯乱状態・不眠などを起こしうる。異常に早期介入し鎮痛・鎮静を行うこともある。薬剤としてベンゾジアゼピン系やオピオイドを用いるが、呼吸抑制のリスクと十分な比較検討を行い使用する。
本シリーズで扱ったせん妄の知識が、ここでも直接生きてくる。集中治療室という環境そのものが、せん妄の促進因子になりうるのである。
急性増悪からの早期離脱は、患者にとって最も効果的といえる。適切な観察・異常の早期発見と対応・安静と栄養・精神的ケアが予後改善の一助となる。
3.6 増悪期の理学療法
多くの研究から、早期からの呼吸リハビリテーションの介入は、急性増悪も生命転帰の改善・ADL低下の予防効果が認められている。早期介入を目指すが、慢性閉塞性肺疾患が消耗性疾患であり生命の危機的状態での理学療法であることを、十分理解しておく必要がある。急性期は、レジスタンストレーニングやコンディショニングから介入し、状態が許せば持久力トレーニングやADLトレーニングと進めるとよい。
気道クリアランス法は、気道内分泌物を除去し、換気とガス交換を改善させ肺合併症を予防する効果がある。体位排痰法や体位ドレナージ法は有効である。具体的には、①体位排痰法・排痰体位(体位を変えることで重力による排痰介助を行う)、②呼気陽圧療法(呼吸補助機械などにより呼気時に陽圧を維持し排痰を促す)、③運動・早期離床、④加湿療法・吸入療法・薬物療法、⑤気管支鏡による分泌物吸引(侵襲的、最重症時は必要に応じて)といった手法がある。
4. 寛解期・慢性期:嵐が過ぎた後の暮らし
4.1 医療介入:酸素と薬の長期管理
急性増悪期を脱しても、酸素療法は長期的に行うことが多く、在宅酸素療法(HOT; Home Oxygen Therapy)を用いる。酸素療法導入は、PaO2<60mmHgが目安とされる。薬物療法は、短期作用型から長期作用型を用いるようになり、長時間作用型気管支拡張剤(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)を合剤で用いたり、微量のステロイド剤や喀痰調整剤で呼吸困難や日常生活を予防したりして日常生活を送る。急性増悪を繰り返さないよう、生活指導や予防が必要となる。
4.2 有害物質吸入の回避:禁煙という最大の一手
慢性閉塞性肺疾患における有害物質の主たるものは煙草である。発症原因の80〜90%は喫煙(副流煙含む)といわれており、禁煙は必ず行う必要がある。ニコチンは直接的な有害物質ではないので、禁煙外来におけるニコチン製剤による禁煙も考慮すべきである。他の原因は、大気汚染や化学物質・粉塵とされており、非喫煙者の場合は環境を変えることも一つの手段といえる。
4.3 薬物療法の注意点
慢性呼吸不全の薬物療法では、増悪時・寛解時に使用する薬剤の違いに注意する必要がある。また、薬剤の形状も吸入薬・内服薬・貼付薬・静注薬と多様あり、取り扱いに十分配慮する。
ステロイド剤に関しては特に、口腔カンジダ症や嗄声などの副作用が起こりやすく、また、免疫の低下から肺炎を起こしやすい。慢性呼吸不全に肺炎を合併することは、生命の危機となりうるため回避すべきである。日常生活の中で感染予防(うがいや手洗いなど)を取り入れ清潔にしておくことが必要である。喀痰調整剤では、口渇や動悸などの副作用が起こることがある。副作用と感じることがあれば、担当医と十分相談する必要がある。
4.4 酸素療法:最低限の濃度で
慢性閉塞性肺疾患の多くは、酸素療法を長期的に行う。酸素療法は、室内気でPaO2<60mmHgまたはSaO2<90%を目標に医師の処方箋に準じて使用される。通常は、目標となる酸素化の値を維持できる最低濃度の酸素量を投与する。酸素投与のディバイスには、酸素カニューレ・酸素マスク・リザーバー付き酸素マスクと低濃度から高濃度まで選択できる。在宅酸素療法(HOT)を選択する場合は、対応業者と相談し酸素ボンベや酸素濃縮器などを選択し、管理やコンディション維持・災害時の対応などを相談しておく必要がある。
また、酸素は支燃性を有しており、酸素療法中の火気取り扱いは十分な指導が必要となる。
「できるだけ多く」ではなく「必要最低限の濃度で」という原則は、後述する二酸化炭素ナルコーシスを避けるための、COPDならではの重要な考え方である。
4.5 栄養:食べることそのものが消耗になる
慢性呼吸不全であっても、最良の栄養法は経口摂取である。慢性閉塞性肺疾患は、慢性消耗性疾患の一つであり、呼吸に大きなエネルギーを消費しており、高いエネルギーを摂取する必要がある。
ただし、運動耐性低下による労作性呼吸困難のため、長時間の咀嚼が困難となる。柔らかく咀嚼が少なくてすむ食事形態への変更も必要となってくる。また、麺料理などのすすり食べが困難となる。麺料理の提供の仕方も工夫が必要となる。
消化吸収機能も低酸素状態とともに効率性が悪くなり、便秘・不消化下痢と悪循環をきたしやすい。生活習慣を整えていく必要がある。
経口栄養補助剤を使用する場合は、高蛋白・高カロリーで、可能であれば炭酸ガス産生を抑制し呼吸商を下げるような補助食品を選択するとよい。
麺をすすることさえ息苦しさの原因になるという指摘は、食事という日常の営みの一つひとつが、COPDの人にとってはどれほど「息を使う作業」であるかを教えてくれる。
4.6 精神面の管理
慢性閉塞性肺疾患患者では、繰り返す急性増悪・持続する呼吸困難や喀痰、咳嗽・疾患の進行に伴う機能障害による日常生活の制限などにより、高率に慢性的な不安や抑うつなどの精神的症状を合併しており、QOL低下につながっている。コミュニケーションを密にとり必要であれば抗不安薬や抗うつ薬の投与も、主治医と考慮する必要がある。
4.6 理学療法:動くことで、動けなくなることを防ぐ
急性期からの継続した呼吸リハビリテーションを行う。急性期を脱しているのであれば十分な栄養下での運動療法が有効である。適切な運動療法は、持久力を上昇させ、ADL低下を防ぐことができる。患者のステージに合わせ、呼吸法・下肢筋力訓練・起立法・ウォーキングと目標を示し実施していく。
尚、状態が安定しているときに、パニックコントロール(呼吸介助法)を患者及び介助者に指導しておくと、発作や強い呼吸困難時に対応が行いやすくなる。
パニックコントロールとは、患者が発作的な呼吸困難でパニックになり、呼吸が乱れて呼吸困難を作る悪循環に陥る、その状況に対して、パニックになる前に自力でゆっくりと深く呼吸を心がけさせる指導や、介助者は患者を起座呼吸にさせかつ両手で患者の呼吸に合わせて、胸郭の圧迫を繰り返し外圧的呼吸介助を行うものである。
前章で扱った呼吸困難のケアで紹介した「呼吸介助」の技術が、ここではCOPDという疾患特有のパニックの悪循環を断ち切るための、具体的な手技として位置づけられている。
5. COPD終末期の3つのパターン
COPDの終末期は、感染などを引き金にした急性増悪の悪化、二酸化炭素ナルコーシスによる高炭酸ガス血症、これらの重複などのパターンに分類される。
5.1 急性増悪の悪化
前に述べたように、慢性閉塞性肺疾患は、増悪・寛解を繰り返し進行する。いずれ肺による酸素化やガス交換が致死的レベルまで障害され、酸素療法や薬物療法に反応が無くなってくる。患者は、呼吸困難による苦痛・死への恐怖・混乱などを起こす。通常は、高濃度酸素投与下での感染コントロールを行う。しかし苦痛や恐怖を除去する効果はない。鎮静薬やオピオイドなどを用い苦痛の緩和に努めることとなる。
5.2 二酸化炭素ナルコーシス
慢性的な肺胞低換気は、血中炭酸ガス(PaCO2)が常に高値となり、呼吸中枢の血中炭酸ガス受容体の興奮を鈍らせ、血中酸素受容体が呼吸調節を司ってしまう。このような状態では、血中炭酸ガス上昇で呼吸中枢が興奮せず、炭酸ガスの体内蓄積を起こす。または、高濃度の酸素投与を行うと、血中酸素濃度が上昇し、呼吸中枢が呼吸を抑制する方向で働いてしまう。
結果、高炭酸ガス血症と低酸素状態の悪循環となり、高炭酸ガス血症の症状である呼吸抑制・意識障害・振戦・痙攣などを呈する。このような状態を、二酸化炭素ナルコーシスという。進行すると完全な麻痺状態となり心停止を起こす。
患者の苦痛は比較的少ないが、早期段階での介入や前駆症状(頭痛や発汗、血圧上昇)などに気づき血中炭酸ガスを測定すれば容易に早期発見ができる。また、慢性閉塞性肺疾患患者への酸素投与時は、常に二酸化炭素ナルコーシスを念頭に置いてケアを行うとよい。
通常、人の呼吸は血液中の二酸化炭素が増えることで刺激される。ところがCOPDでは、二酸化炭素が慢性的に高い状態が続くことで、この仕組みが鈍ってしまい、代わりに「酸素が足りない」という信号が呼吸を駆動するようになる。この状態で酸素を大量に投与すると、呼吸を促す最後の信号まで消してしまう——「苦しいから酸素を」という自然な反応が、かえって危険をもたらしうるという、COPDケアの最も重要な落とし穴である。
5.3 急性増悪と二酸化炭素ナルコーシスの合併
これらは、臨床で度々合併して出現する。感染をコントロールし、酸素化を維持し、ガス交換を支援する。しかし、これらの治療で改善が得られず、侵襲的な処置(気管内挿管)などを行っても肺の器質的ダメージなどにより奏功しないことも十分ありうる。
また、一時的に改善しても、治療による侵襲が引き起こす体力低下、免疫力低下、呼吸筋の疲労、横隔膜の機能低下、意識状態の低下などにより、すぐに急性増悪を起こしてしまう。
6. 話し合うことが、苦痛を和らげる
慢性閉塞性肺疾患は、不可逆性かつ進行性の疾患であり、病状の悪化に伴い、日常生活は大きく影響を受ける。患者と家族・医療者で、今後起こりうる過程を話し合いアドバンス・ケア・プランニング(ACP; Advance Care Planning)を行うことが、患者・家族の苦痛軽減につながるといえる。
COPDの終末期は、急性増悪、二酸化炭素ナルコーシス、あるいはその合併という、突然の悪化を伴うことが多い。そのとき、気管内挿管を含む積極的な処置を望むのか、苦痛の緩和を中心にした対応を望むのか——この選択を迫られる瞬間に備えて、元気なうちから、あるいは状態が落ち着いている寛解期のうちに、本人と家族がともに話し合っておくことが、後々の後悔や葛藤を和らげる最大の備えになる。
7. まとめ:息をするという、当たり前の営みを守る
COPDは、長年の喫煙という生活習慣の積み重ねによって、ゆっくりと、しかし不可逆的に進行していく病である。診断されないまま過ごしている人も多く、気づいたときには、増悪と寛解を繰り返しながら階段を下りるように機能が落ちていく。
急性増悪の時期には、NPPVやハイフローセラピーといった呼吸補助と、せん妄を防ぐ精神的なケアを組み合わせ、いかに早く増悪から抜け出せるかが予後を左右する。寛解期には、禁煙、最低限の酸素濃度での在宅酸素療法、麺をすするだけでも息切れするという現実に配慮した食事の工夫、そして発作時のパニックを防ぐ呼吸介助の技術が、日々の暮らしを支える。
そして終末期には、酸素を投与するという行為自体が、二酸化炭素ナルコーシスという落とし穴を孕む。この疾患特有の落とし穴を常に念頭に置きながら、苦痛を鎮静薬やオピオイドで和らげ、本人と家族が望む最期の形を、事前の話し合いを通じて一緒に見つけていく。息をするという、誰もが無意識にこなしている営みが難しくなったとき、その人らしい時間をどこまで支え続けられるか。COPDの終末期ケアは、その問いに、身体の仕組みへの深い理解と、本人・家族への丁寧な寄り添いの両面から応え続ける営みなのである。
